カバン・袋物・帆布加工一式 一澤信三郎帆布

信三郎のええかげんな話

Date 2019.06.17

#96 名脇役

うちの仕事に欠かせへん道具が、「切り株」です。ミシンが主役とすれば、これは名脇役なんです。
かばん作りに切り株というのは、なんとも不思議な組み合わせやと思われるでしょう。これが職人の作業台になるんです。
切り株は、叩いた力をしっかりと受け止め、吸収してくれます。
帆布は打ち込みが強く堅いので、なかなか扱いにくい素材です。縫製するためには切り株の上で、木槌で叩いて折り目を付けることから始めます。
新しく入ってきた職人がまず覚えなあかんことは、同じ幅に生地を折ることで1mm増えても1mm減ってもあかん。同じ寸法できっちり折ることで、ミシン仕事がやり易くなって、最終的にあか抜けたかばんに仕上がります。
帆布はしっかりと生地の目が詰まっているので、縫い間違って糸を解くと、帆布に針跡が残ってしまうんで、縫い直しがききません。そやからなおさら正確に折り目を付けなあかんのです。うちの工房では、常にリズミカルに、「コンコンコン」「トントントン」「ドンドン」という音が響いてます。
切り株は欅や桜、いちい、楢など、堅い大木を輪切りに製材したものです。
長いこと使うてると、木口(こぐち)が滑らかになって、とろりとした飴色に変わって艶がでてきます。そやけど、職人それぞれの使い癖で、一部分が減ってきたり、木槌やポンチの跡がデコボコになったり、大きくひび割れが出たりもします。

そこで名工の出番です。昔から懇意にしている縁で、木漆工芸家の宮本貞治さんに修繕をお願いしています。彼は人間国宝の黒田辰秋さんの孫弟子で、私的には、その才能を一番受け継いでいるのではと思ってるんです。切り株のすり減った面にはカンナをかけて平らにし、ひび割れた部分にはV字型に薄く切り出した木片を埋め込んでもろて、見事に甦りました。
職人たちもこの補修跡を目の当たりにすると、かばんの修繕にも励みが出るんですわ。
何でも直して生かさなあかんなあ。
私自身はもう継ぎはぎが利きまへんが・・・。