カバン・袋物・帆布加工一式 一澤信三郎帆布

信三郎のええかげんな話

Date 2019.10.19

#100 ☆番外編 一澤恵美の几帳面な話

いつの間にか『信三郎のええかげんな話』が100回を迎えました。
私(一澤恵美)毎月、毎月、「もうすぐ一か月よ、そろそろ次の話を考えんと。」と、99回も言ってきたんですねえ。
なかなか書く気になれない言い訳は、夏は「暑さで脳ミソが溶けてしもうて、半脳死状態や」、寒い時は「冬ごもり、脳が凍死で休業や」と、なかなか気分が乗りません。おまけに、お酒は365日欠かしませんので(心臓と同じで肝臓も休ませたらあかんそうで??)、すでに脳は「アルチュウーハイマー」になっているかもしれません。
そんな人が毎回こだわることはただ一つ、“ 笑いが入らなあかん ”
この調子で毎月一度書いてもらうのは、本当に大変なんです。
私が下書きをすれば、ぐちゃぐちゃに直されて、「こんなに直すんやったら最初から書けば」と喧嘩のタネになります。
…よくぞ100回も続いたものです。
原稿が何とか出来上がると、俄然スイッチが入ります。写真にはとことん凝るんです。カメラの得意な社員に撮影を頼むんですが、撮った写真を見せるとたいがい「こんなん全然あかんわ」とダメ出しが続きます。
♯73の「永遠のランドセル」では、孫や社員まで駆り出して植田正治さんの写真のオマージュを撮ることになり、写真によく似た衣装や、自転車やおもちゃのピストルまで用意する凝りようでした(本人もこっそり登場しています)。
♯84「ああもったいない」では、自分の気に入った古いシャツを、白川の川面にはためかせたいと、5人の社員が駆り出されて、川に入ってロープの両端を持たされて撮影しました。
“ 仕事もこれぐらい頑張れば ” 、と思うこともありますが、こんなことが元気の秘訣でしょうか。
さて、101回目は、何を書くのでしょうか。
「えー、まだ続けなあかんのかぁ」と、隣でぼやきが・・。

Date 2019.09.17

#99 川上村の大欅(オオケヤキ)

うちの職人に奈良県の吉野の山奥、川上村の出身がいます。
職人になりたいと面接に来た時に「君、特技はなんや?」「川で鯉を手づかみできます」の一言で、「そら、手先が器用なんやろうなあ」と、採用を決めた男です。
その彼の出身地、川上村の由緒ある丹生川上神社のご神木の大欅の話です。
その欅は南北朝時代に芽吹いた高さが50メートルもある樹齢500年の大木で、傷みが少ない生木として長年、専門の銘木業者の誰もが、喉から手が出るほど欲しがる木やったんやそうです。
私は昔から無垢の材を加工した、机や椅子・棚などの木工品が好きで、日常的に使っています。長く使っているうちに木がええ味になって、馴染んでくるんです。10年ほど前に、欅の銘木の売り立てがあることを聞いて、昵懇の木工芸家の宮本貞治さんに見に行ってもらいました。宮本さんから、「あれはめったに出ぇへん、ええもんですわ。」と、写真を見せられ、幅も厚みもあり、木目も素直で、その堂々とした姿に一目ぼれしてしまいました。無理して入札に参加してもろうて、気に入りの1枚を何とか手に入れたんです。
後日、銘木屋さんから、その木の来歴を聞いてびっくり。その木がまさに丹生川上神社のご神木やったんです。大型ダム建設のためにその神社が水底に沈んでしまうことになって、移転費用の一部にと、惜しまれながら切られてしもうたそうなんや。
風雪に耐えて風格のある木を加工してしまうのは、もったいのうて、宮本さんに、あまりいじらずに元の姿のままでと、うちの事務所のテーブルにしてもらうよう頼みました。
漆もあっさりと拭いてもろうて、堂々としたテーブルになり、皆が集う場として活躍してくれています。
清流に映える紅葉には少し早いやろうけど、来月の初めに社員旅行で、川上村を訪ねます。
新たに建立された丹生川上神社に皆で参拝して、これからが平和で安穏な世の中でありますよう祈願してきたいと思っています。
そやそや、少しは商売の安泰も願わなあきませんなあ。

Date 2019.08.15

#98 マニュアルはあらへん、いらへん

未だ手書きでバラバラのノート類

うちには、70人ほどの職人が居てます。
ミシンを縫う職人と、ミシン仕事がスムーズに進められるように、布を折ったり、印をつけたり、金具を付けたりする下職とが、やり取りをしながらかばんを作っていきます。
帆布の反物は専門の担当が裁断しますが、かばんの製作は、そのチームで最初から仕上げまでやるんで、うちでは、誰が作ったかばんかも、だいたいわかるんです。やり甲斐のある仕事やけど、もちろん責任も伴います。
今までミシンや道具類、帆布にさえも触ったことのない若者が職人希望で入ってくるんで、先輩が、いちから徐々にいろんなことを教えていきます。
そこに、必ずこの通りにせなあかんというマニュアルは、あらへんのです。
新人は入ってきたら、まずは下職から始めます。
シンプルな道具袋(トートバッグ)から教わって、徐々に難しいかばんに挑戦していきます。先輩から毎日いろんなことを見習うて、それを自分なりにノートにメモしていきます。
下職をしながら、「一澤帆布製」や「信三郎帆布」などの織ネームを縫い付けたり、内側のポケットを縫わせてもらいながら、ミシン仕事にも慣れていって、7〜8年でかばんを縫えるようになります。
完璧なマニュアルを作成してしもうたら、マニュアル通りにするだけで、それ以上に知恵を働かせて工夫せぇへん。
途中のやり方がチームによって違うても、最終的に確かで、スカッとあか抜けたもんができればええんです。
私自身が、研修会も講演会も苦手で、何とのう自分のしたいように生きてるのに、職人を型にはめることなんかできひん。
みんなのノート、いっぺんこっそり見てみたいもんです。
私の悪口や似顔絵でも描いてあるとおもろいんやけどなぁ。

未だにハサミで一枚づつ裁断

Date 2019.07.11

#97 ちょいワルなTシャツ

京では、蒸し蒸しする梅雨の時期が終わると、うだるような猛暑の到来です。
今年も恒例のTシャツを職人たちに配布する季節がやってきました。市販のモノではつまらんので、毎年、社内でTシャツのデザインを募集します。
我こそはと思う者が応募してくれればええんで、いつもデザインが集まるのは20人ぐらいかな。今年は職人の息子さんや奥さんも絵を描いて応募してくれました。
それこそ、出来はピンからキリまでやけど、みんなの頭のトレーニングやと思ってるんです。どのデザインにするかは、何人かの意見は聞きますが、ほぼ私の直感で、面白うてインパクトのあるもの、そして僅かなりともうちの店らしさが漂うものを選びます。

今回は、二人の職人のデザインを少しいじって、前と後ろで合作にしました。実は、私もほぼ毎年衰えた脳ミソに刺激をと、出しゃばって参戦します。
脳ミソのガラガラの引き出しを開けてヒント探しです。熱中し過ぎると、目をつぶると天井に図案が浮かんだりするんです。
私のデザインの出来が良うて(?)私のだけを選んでしまうと、身贔屓になってもあかんので、度々2種類作ることになってしまう。果たしてええのか悪いのか・・・。みんなは喜んでいるやろうけどなあ。
実は、私は今年の2月に古希になってしもうて、悪友から生まれ年の赤ワインをもらいました。早速、仲間たちと「70年前のワインもまだまだいけるなあ」と喜んで飲み干して、しげしげと空のワインのラベルを眺めていると、ピンとひらめいたんです。そやそや、製造年はうちの創業年に、ラベルはかばん、製造地はKYOTO・・と次々とアイデアが浮かんできました。伊達に年くってへんなあ、と独りごちて、Tシャツのデザインが完成しました。
周りには、それぞれの国の人に「かばん」を意味する文字を書いてもろうて散りばめました。
何とか出来上がったのが、写真のちょいワルなTシャツ。
お恥ずかしいんですが、気に入ってくれはる方があれば、店頭のみで初めてちょこっと販売してみようかなと思ってるんです。

Date 2019.06.17

#96 名脇役

うちの仕事に欠かせへん道具が、「切り株」です。ミシンが主役とすれば、これは名脇役なんです。
かばん作りに切り株というのは、なんとも不思議な組み合わせやと思われるでしょう。これが職人の作業台になるんです。
切り株は、叩いた力をしっかりと受け止め、吸収してくれます。
帆布は打ち込みが強く堅いので、なかなか扱いにくい素材です。縫製するためには切り株の上で、木槌で叩いて折り目を付けることから始めます。
新しく入ってきた職人がまず覚えなあかんことは、同じ幅に生地を折ることで1mm増えても1mm減ってもあかん。同じ寸法できっちり折ることで、ミシン仕事がやり易くなって、最終的にあか抜けたかばんに仕上がります。
帆布はしっかりと生地の目が詰まっているので、縫い間違って糸を解くと、帆布に針跡が残ってしまうんで、縫い直しがききません。そやからなおさら正確に折り目を付けなあかんのです。うちの工房では、常にリズミカルに、「コンコンコン」「トントントン」「ドンドン」という音が響いてます。
切り株は欅や桜、いちい、楢など、堅い大木を輪切りに製材したものです。
長いこと使うてると、木口(こぐち)が滑らかになって、とろりとした飴色に変わって艶がでてきます。そやけど、職人それぞれの使い癖で、一部分が減ってきたり、木槌やポンチの跡がデコボコになったり、大きくひび割れが出たりもします。

そこで名工の出番です。昔から懇意にしている縁で、木漆工芸家の宮本貞治さんに修繕をお願いしています。彼は人間国宝の黒田辰秋さんの孫弟子で、私的には、その才能を一番受け継いでいるのではと思ってるんです。切り株のすり減った面にはカンナをかけて平らにし、ひび割れた部分にはV字型に薄く切り出した木片を埋め込んでもろて、見事に甦りました。
職人たちもこの補修跡を目の当たりにすると、かばんの修繕にも励みが出るんですわ。
何でも直して生かさなあかんなあ。
私自身はもう継ぎはぎが利きまへんが・・・。